アンコンシャス・バイアスの脱し方のヒント。

アンコンシャス・バイアスの脱し方のヒント。

「メタ認知」や「アンコンシャス・バイアス」という言葉が広まっています。

Chat-GPTなどのAIが台頭する中で、「人の認知」というものの尊さに注目が集まっている時代の流れを受けてのことかもしれません。

メタ認知とは、ご存知の通り「メタ=高次の」認知。つまり、自らの認知活動を、さらに大きな視野で俯瞰的に観察してとらえている活動のことです。

認知活動とは、自分を取り巻く状況に対して、自分自身が抱いている思考、感情、理解、判断などを指します。

人は、様々な体験や経験を経て、独自の認知システムをつくりあげます。

 

発達心理学の知見から「認知システム」を紐解く

発達心理学では、「シェマ」の獲得「同化」と「調整」で認知システムを語っています。

人は生まれた時から、外界のものに出会い、触れたり、見たり聞いたり、働きかけたりしながら、知識を獲得していきます。新しい事象をただ単に積み上げるだけではなく、同時に、「シェマ」という理解するための枠組みを構築していくのです。

 

メタ認知とは何か?

シェマと同化・調整を使って、メタ認知を紐解いてみましょう。

生まれて初めてリンゴを食べたとき、それはただの「リンゴ」でしかありませんが、次に「イチゴ」と「キュウリ」と「キャベツ」に出会った時に、「フルーツ」と「野菜」という枠組みが生まれます。

さらに、「オレンジ」に出会ったときには、「フルーツ」というシェマに「同化」させればいいわけですが、「鶏肉」に出会ったときには、新しい「肉」というシェマを形成する必要があり、こうして「調整」が行われていくのです。

リンゴ、イチゴ、キュウリ、キャベツ、オレンジ、鶏肉を知っていたとしても、世界の食文化の全てを熟知したことにはならず、1%にも満たないわけですが、自分が知っているのは「1%にも満たない、ごく一部だ」ということを認識することが、メタ認知と言えるでしょう。

アンコンシャス・バイアスとは何か?

それに引き換えアンコンシャス・バイアスとは、なんとなくのイメージで「日本産の野菜は農薬量が少なく、東南アジア産よりも安心・安全だ」と思い込んでいる状態と言えるでしょう。

参考までに、農林水産省の残留農薬基準値調査のうち、「りんご」について日本と諸外国で比較した表がこちらです。

 

私はある日、オーガニックや食料問題に知見のある友人に、「日本産の野菜は農薬量が多くて、輸出できない(海外から受け入れを拒否されている)んだよ」と言われて、「えーーー!そうなの?」と驚いた過去があるのですが、皆さんはいかがでしょうか。

これは、「高品質のジャパンメイド」というカルチャーの中で培ってきた、私のアンコンシャス・バイアスだと言えるでしょう。

日本の、諸外国より残留農薬が多いリンゴを食べていても、日常生活に不都合があるわけではありませんから、アンコンシャス・バイアスに気づくことは難しいのです。

アンコンシャス・バイアスがない人はこの世に存在せず、かといって変化が激しい世の中では、これまでに形成してきた「シェマ」だけで生きていくのは、却って不都合が多そうですから、アン・ラーニングや、新しいメタの獲得=シェマの調整を積極的に行っていく方針が良さそうに思えます。

 

認知行動療法の知見から、ネガティブな自動思考を抜ける

シェマの形成は、色々な方向に進んでいきます。

アンコンシャス・バイアスとは、無意識に形成された偏見という意味ですが、これを助長させる認知システムに、「自動思考」があるように思います。

例えば、仕事の現場で、「自分の意見を他人に伝える際にどうするか」「新しい仕事を言い渡されたときに、どう反応するか」といった時に、どう認識して、近い未来予測をどのように組み立てるでしょうか。

この時に利用している「シェマ」があまりに悲観的で否定的なとき、私たちは自ら未来に向かう歩みと止めてしまったり、普通にやれば何でもないことを、かえってややこしく、難しくしてしまうことがあります。

認知行動療法では、これらの否定的な思い込みのことを「自動思考」として、いくつかのパターンの分類と、回避するための考え方を提示しています。

 

①思い込み、決めつけ

「私にそんなことできるはずがない」

→その根拠はどこにあるのだろう

 

②白か黒の二元論的思考

「絶対にAさんが悪い。私に落ち度はない。」

→現実社会では、白か黒かでわりきれず、あいまいな部分が多い

 

③べき思考

「みんな、こうあるべきである」

→ほかの人(全社員、日本人全員、地球上の人すべて)もそう考えているだろうか

 

④自己批判

「この状況が起こってしまったのは、すべて私の責任だ。」

→具体的に、誰にどんな責任があるのかを書き出してみる

 

⑤深読み

「あの人は、こう考えているに違いない」

「Aさんに目をそらされた。きっと、私のことが嫌いなんだ。」

→直接、本人に気持ちを確認してみる

 

⑥先読み

「このプロジェクトは、うまくいくはずがない」(悲観的な予測をたてる。これから先、何事もうまくいかないだろう)

→失敗するかもしれない要因について現実的に検討し、具体的な対応策を考える

 

新しいシェマの形成に欠かせない、シナプス結合

人の心理現象を生理学的に紐解くと、心理機能の基盤は神経回路網であり、その基盤となっているのが「シナプス結合」です。

様々な外部刺激が起こり、閾値を超えたときに、活動電位は次のシナプスにその興奮を伝えて、シナプス結合が起こります。外部刺激があっても閾値を超えなければ、静寂に戻ります。

新しいシェマの獲得には、積極的に外部環境に反応して、シナプス結合を起こすという能動的な態度が必要になるでしょう。

脳の老化は比較的ゆっくり進み、生涯を通してシナプス結合は調節され続け、結果として人間の学習や認知、感情のパターンも変化していく可能性を持っています。

新しいシナプス結合を小さくたくさん起こして、新しいシェマを形成する。

「そんな風に、今日を生きてみよう」と思うだけで、身体中の細胞さえもイキイキとするのを感じます。

 

冬にすっかり葉っぱが落ちて、つるつるになっていた銀杏の木に、新芽がびっしり生まれている様子を見てワクワクしました。

きっと、私の脳内でシナプス結合が起こったのだと思います。その結合の結果、書き上げたのがこのテキストです。

 

※参考書籍:

「改訂第2版 専門医がやさしく語る はじめての精神医学」(著:渡辺雅幸)

「はじめての認知療法 – こころが晴れるメソッド入門 」(著:大野裕)

 

 

 

本記事のライター

楢侑子  Nara Yuko

株式会社ナムフォト 代表取締役/ miit代表 / 写真心理学研究家

多摩美術大学で写真を始めて以来、写真家として活動を続けながら、mixi、TOKYO FM avexなどでメディアの企画・編集に従事。ライター時代はヒット記事を連発。さらにコミュニティデザインの仕事を経て2016年ナムフォト設立。ポートレート撮影を「究極のコミュニケーション」と位置づけ、撮影やワークショップを行う他、写真を使ったコーチングセッションを提供。BtoB向けのワークショップ運営やチーム立ち上げ、研修事業に関わっている。2020年、写真心理学という独自メソッドを用いた研修サービス「miit」をリリース。2022年より社会人学生として心理学の研究をスタート。