撮影された写真を通して、撮った人の潜在意識や表現力の特徴などを読み解くナムフォト独自のメソッド「写真心理学」。
その可能性を探るべく、各界で活躍されている”気になる人たち”に写真心理学を体験してもらいながらお話を聞いていきます。今回お話をお聞きしたのは、NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長の笹原優子さんです。
インタビューでは、事前に「1年以内に撮影した、心が震える3枚の写真」を選んでいただき、写真心理学診断書を発行しています。
笹原さんは、「iモード」の立ち上げに関わったことを筆頭に、ドコモの新規事業系の組織を歴任し、2021年株式会社NTTドコモ・ベンチャーズの代表取締役社長に就任。私生活では、大の「F1」好きとしても、よく知られています。この度「写真心理学」をどの様に体験くださったでしょうか?
笹原優子さん(Yuko Sasahara)プロフィール
1995年に株式会社NTTドコモに新卒入社。iモードの立ち上げや端末ブランド体系のリニューアルを手掛けた後、2013年にMBAを取得。2014年よりイノベーション統括部 担当部長として、ボトムアップ式の新規事業開発に携わる。2021年6月に、NTTグループのCVCである「株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ」の代表取締役社長に就任。https://www.nttdocomo-v.com//
笹原優子さんと写真の関係
>>笹原さんは、「miit」の事業開発をしていた2020年に、ヒアリングをさせていただいたのが最初の出会いでした。今回、実際に写真心理学を体験してみていかがでしたか?
笹原優子さん(以下、笹原_敬称略): 写真心理学診断、すごく面白かったです!実際に診断されると「こういうことか!」ってなりますね。
>>ありがとうございます。後ほどゆっくり聞かせてください。まずは、普段どんな風に写真を撮影しているかお伺いしてもよろしいですか?
笹原: 目に入ってきたものが嬉しく感じられたときに、スマホで撮影していますね。「ごはん」も撮るけど、景色のほうが好きです。ごはんは、目の前の感動がどうしたらそのまま写るかが分からなくて。
>>写真を拝見して「ご自身の感受性に、とても誠実にコミットされている方なんだな」と感じました。
笹原: 「私は何が好きなんだろう」「何に心が触れるんだろう」ということは、日頃から感じるように気をつけています。
これまで新規事業に携わってきましたが「正解がない」世界です。その中で、自分の美学や自分の気持ちが動く方向を注意深く観察するようになりました。
あとは、デザイナーの友人の影響もありますね。iモード立ち上げの仕事で出会い、かれこれ20年来の付き合いなのですが、その子の分析や物の見方がすごく面白くて、そこに近づきたいという憧れもあったように思います。
NTTドコモ入社から、NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役就任までのご経歴
>>そもそも、なぜドコモに入社されたんですか?
笹原: もともと、ゲームが好きだったので、アミューズメントパークなどのエンタメ系を受けていました。当時、ケータイは高価で、芸能人や国会議員しか持っていないような時代でした。業界リストを見ながら、ふと「無線でいつでもどこでもコミュニケーションができるって、最高のエンタメ」だと思ったんです。
入社して4年目にiモードの立ち上げ部署に異動しました。ケータイに搭載する機能などを0ベースで考えるような仕事です。PCサービスを参考にしながら技術的に実現できそうなもの、かつケータイに搭載することでお客さんに喜ばれそうなものは何か。
上司も同僚も、みんな「自分が使ってみたい」を軸にしながら、本気で意見をぶつけ合って、土曜日も有志メンバー(結局は全員)が出社したりしてサービスを作っていきました。
サービスやケータイを誰よりも自分たちが使っている人たちだったので、ケータイの発売日は怖かったですね。上司から「ここ、使いづらいんだけど、なんで?」って電話がかかってくるんです。それと同時に、自分たちでサービスに触れながら「これは、ない」「これは、いい」などと議論できるのは、すごく正しかったなって思います。
>>当時から、ドコモは大きな会社だったと思うのですが、その自由でフレキシブルなカルチャーはどの様に醸成されたのですか?
笹原: 決定権を持っている担当部長レベルも含めて、外から転職して来た人たちが多かったので多様性が担保されていたこと。あとは、物理的に本社から離れており、出島になっていたこと。本社会議の時にみんなで自転車で移動したり(笑)
>>微笑ましい光景ですね(笑)
笹原: iモード立ち上げに6年関わった後に関西支社に異動しました。iモード立ち上げ中に結婚したのですが、相手が大阪在住だったんです。私は学生の時からF1好きだったのですが、旦那さんも同じくF1好きで(笑)2年後にまた東京に異動をお願いして、端末のシリーズのリブランディングのリーダーをしたり。(と同時に、プライベートでは遠距離結婚生活が再スタート)
商品企画に深く関わるうちに、マーケティングや事業戦略などを学びたいと思うようになり、MBAに興味を持ちました。
その当時、ケータイ市場は、サムスンやアップルのiPhoneが出てきてグローバルな市場に変化していました。グローバル市場を学んでドコモの仕事を続けるか、国内だけで通用するような仕事に転職するかのどちらかだと思うようになりました。
実は転職も考えていたのですが、会社からたまたまその頃MBA取得の声をかけていただいて、39歳から40歳にかけての一年、アメリカに留学しました。ビジネスの世界で色々と経験した後で学べたのは良かったですね。やってきたことをフレームワークで整理してもらえた感覚でした。
帰国後1年間、マーケティングの部署を経験して、その後、R&Dの本部の中のイノベーション統括部というところで担当部長となりました。ボトムアップの新規事業の立ち上げに関わり、そこは7年いて、2021年に現職のNTTドコモ・ベンチャーズの代表取締役社長に就任しました。
NTTドコモ・ベンチャーズのミッション・ビジョン・バリュー
>>実は、私達はNTTドコモ・ベンチャーズが運営しているアクセラレーション施設「/Hub」の3期生に採択されて大変お世話になっていました。現時点で、CVCの方針としてどんなことを掲げているんですか?
笹原: まず、NTTドコモ・ベンチャーズのチームとしては、たとえば「それ、違うよね」みたいに、言いにくいことも、率直な意見交換をできるような、多様性があってオープンでフラットなカルチャーを育てていきたいなと。Mission Vision Valueをみんなで作ったのですが、そんな過程を通して少しずつできていると思います。
・Our Mission
力と想いを束ね、世界の景色を変える。
・Our Vision
世界の景色を変える力と想いが、世界中から集まるコーポレートベンチャーキャピタルへ。
・Our Value
・自らが未来を想像し、創造する。
・実直な姿勢で周囲を巻き込む。
・多様性を歓迎する。
・摩擦で生まれるエネルギーを推進力に。
・ワクワクし、ワクワクさせる。
笹原: 私たちも一員として、創造に関わりたいですね。活動を通して世界中から面白い人や情報が集まってきて、一緒に景色をつくっていけるようなVCになれたらと思っています。
>>ミッションの写真が、その様子を表現していてとても素敵ですね。ここら辺で、笹原さんの、直近1年の「心が震える3枚の写真」をご紹介いただけますでしょうか。
笹原さんの写真と、写真心理学診断の特徴
一枚目
笹原: 2022年3月に、鈴鹿サーキットに行ったときの写真で、F1のポールポジションのグリッドから撮影したものです。今いる場所からベストを尽くそうという気持ちで、自分の足と共に写しました。現職に就いて、毎日毎日、色々な気づきがあって、日に日に、がんばらないとっていう気持ちを強めているんです。
あとは、こういった足元を撮っている写真がなぜか多いんですよ。マンホールと私の足、とか。
>>ご自身と社会との接点にとても自覚的でいらっしゃるんですね。「水平垂直への意識」で、価値観が透けて見えるのですが、笹原さんはふわっとしていらっしゃいます。これは、自分の心がビビッと動いたときに、シャッターを押している現れです。人によっては、手に持ってる袋(右下)が写らないようにするとか、そういうことにも気を使われるんですよ。
笹原: なるほど!私にとっては、この位置に自分が立ってることが重要で、袋のことは全く気にしていなかったです。
二枚目
笹原: 三重県の新たな観光スポットで、多気町にあるVISON HOTELSです。結婚記念日を祝して泊まったのですが、夫と館内を見学して回ってて、ふと構造体が美しいなと思って。エスカレータに乗っていたので流されるまま、慌てて撮りました。とてもリラックスしていたときに素敵な建物に出会って嬉しかったし、目で見た印象と同じように撮れたのも嬉しかったですね。
>>実は、このお写真を拝見して、「あぁ、だからF1好きでいらっしゃるんだな」と腹落ちした部分がありました(笑)
笹原: エッ。それは、どういうことですか?
>>お仕事でも最新スポットやテクノロジーに触れる機会は多いと思うのですが、このホテルもまさに。そして、ハード面だけに注目しているわけではなく、一緒にいる旦那さんの存在や、自然の様子、自分の心が震えている様子、その全部が介在している方なんだなと感じました。F1も、まさに生身の人間とテクノロジーが一緒になって、世界一を競う中で、色々なドラマが起こる世界ですよね。
笹原: そうですね、レーサー20人の裏側には、たくさんのスタッフがいて、現地に行くと車の形はもちろん、音もかっこいいんです。各チームごとに戦略があって、何回も勝負した上でワールドチャンピオンが決まります。調子が良い時、悪い時があって、人間ドラマがありますね。その全部が魅力です。
三枚目
笹原: 友人と友人のオフィスでゆったりと話をしていて「そういえば外もいいんですよ」と言われて外に出たらびっくりするくらい綺麗な夕焼けの日で、「お!これやばいね!!!」と、感動して撮影した一枚です。朝の美しさは元気になるのですが、夕景が綺麗だとすごく心が震えます。
>>これは、まさに、ずばり心が動かされて思わずシャッターを切った様子が伝わってきますね。
笹原: そうですね、この日に色々話してた内容とかも含めて、心が震えたことをよく覚えています。「その瞬間が切り取れている」ことが私にとっては大事ですね。
写真心理学の面白さと、可能性
>>写真心理学診断書が面白い!と感じていただけたのは、具体的にはどんな点でしょうか?
笹原: まず「社会との関わりを大切にしている」という記述があり「そんなことが分かるんだー」っと。「デザインを意識している」とかはあると思うんですけど、「社会か」と。でも言われてみればそうだなっと。「その環境の中にいる自分がすごい面白い」って感じているんです。そこに気づけたのが面白かったです。
>>「写真心理学」とは言え、撮影動機などのコメントも参考にしながら診断しているのですが、笹原さんの写真は、要素が多いですよね。まず、自分の感情がどうなっているかを気にかけ、隣にいる人のことも気にかけ、社会の様子、最新のテクノロジーや構造、自然の様子、地球の奇跡みたいな美しさにも感動していて、観察対象が広いです。
笹原: あとは、「人好き」なのに、人の写真を選ばなかった点に気づけたのも面白かったです。今回はテーマが「心が震える瞬間」だということもあって、自分の美学に触れるか、触れないかでいくと、また別の話なんだなって。
>>それは、少し分かります。コミュニケーションは、今この場で自分と相手との間に成立しているもので、写真にならなくても大丈夫というか。
笹原: そうですね、人は、コミュニケーションをする相手で、被写体じゃないんだなと思いました。
今日、シリコンバレーのチームも含めて、NTTドコモ・ベンチャーズの今年度のキックオフを開催したんですが、その時にメンバーのひとりが、みんなからの質問に一生懸命答えたり、説明している様子が少し普段とは異なってかわいらしく感じて、その様子は撮りました(笑)
>>それ、まさに「社会の様子」ですね(笑)笹原さんは、気さくなコミュニケーションや、チャーミングなお人柄に惹かれていらっしゃる方やファンも多いと思うのですが、そのお人柄の後ろには、社会を広く捉えているセンサーがあるんだなぁと、今回しみじみと感じました。
笹原: そのセンサー、持っていたいですね。写真心理学診断を拝見して、嬉しかったし、興味深かったんですよ。「おおおおーーーーっ」てなりました。自分が褒められたい形で褒められている感じがしました。これまでにない角度なんですよね。自分が大切にしているセンサーを見つけて褒めてもらえるのは、めちゃくちゃ嬉しいですね。
>>・・・褒めてないんですけどね。見て、診断しているだけなので。
笹原: 確かに(笑)褒めてないですね!
あとは、「視点を増やすためのアイデア」についての記述も面白かったです。
私は、自分が見ているものを、見えているように撮りたいという意識が強いんだなと。これを踏まえてデザイン感度の高い人の写真を見ると、極端に角度を変えたり、より印象的になるように画角を調整していることが分かって、「なるほど、こういう角度からいくのか!」という学びがありました。
この視点を真似すると、心が震えている部分をよりキャッチーに切り取れるようになるかもしれないです。
>>笹原さんには、リリース前より写真心理学サービス「miit」の存在を知ってくれていた方ですが、今回改めて体験されていかがでしたか?
笹原: やっぱり、写真心理学診断を実際に受けてみたら「お!なるほど、こういうことか!」「こんな切り口の診断なのか!」って思えたので、実際に診断を受ける前にその可能性が伝わるようにするにはどうすればいいんだろう・・・っていうことを考えました。
あとは、誰かと比較できると面白そうなので、そういう意味ではチームで取り組んだり、または1年ごとに定点観測のように診断をして自分の感性がどう磨かれたかなどを測れると面白そうです。
>>ぜひ、チームで実施いただきたいですし、定点観測はサービスとして提供したいことの一つです。
笹原: それこそ、シリコンバレーのチームもオンラインで一緒にできるところのが良いですね。
ちなみに、写真心理学診断結果は、チームメンバーに知ってほしくてシェアしちゃいました(笑)
>>なんと!とても嬉しいです。チームの皆さんに、写真心理学の面白さが伝わりますように…!
インタビュアー プロフィール
楢侑子 Nara Yuko
株式会社ナムフォト 代表取締役/ miit代表 / 写真心理学士
多摩美術大学で写真を始めて以来、写真家として活動を続けながら、mixi、TOKYO FM avexなどでメディアの企画・編集に従事。ライター時代はヒット記事を連発。さらにコミュニティデザインの仕事を経て2016年ナムフォト設立。ポートレート撮影を「究極のコミュニケーション」と位置づけ、撮影やワークショップを行う他、写真を使ったコーチングセッションを提供。BtoB向けのワークショップ運営やチーム立ち上げ、研修事業に関わっている。2020年、写真心理学という独自メソッドを用いた研修サービス「miit」をリリース。