元 富士フイルムOpen innovation Hub館長/現 designMeME小島健嗣さん「個人の気づきをメタファー化した写真心理学は、共感・共創を生むきっかけになる」

元 富士フイルムOpen innovation Hub館長/現 designMeME小島健嗣さん「個人の気づきをメタファー化した写真心理学は、共感・共創を生むきっかけになる」

撮影された写真を通して、撮った人の潜在意識や表現力の特徴などを読み解くナムフォト独自のメソッド「写真心理学」。その可能性を探るべく、各界で活躍されている”気になる人たち”に写真心理学を体験してもらいながらお話を聞いていきます。今回お話をお聞きしたのは、元富士フイルムOpen innovation Hub館長、2022年1月に design MeME合同会社を立ち上げた小島健嗣さんです。

インタビューでは、事前に「1年以内に撮影した、心が震える3枚の写真」を選んでいただき、写真心理学診断書を発行しています。

富士フイルムといえば、世界的に写真カルチャーを牽引した後に、医療や化粧品関連事業へと鮮やかにイノベーションを遂げられた会社です。そんな企業内部で磨かれた視点を元に、miitが提供する「写真心理学」について言及いただきました。

小島健嗣さん(Kojima Kenji)プロフィール

1986年にプロダクトデザイナーとして富士フイルムに入社。後に富士フイルムの構造改革や事業改革に携わるように。2014年には「Open Innovation Hub」を立ち上げ、社内外の最新技術やアイデアが混ざり合う場所を創出する。富士フイルム退職後、2022年1月にdesign MeME合同会社を立ち上げ、現在は「デザインコンサルティングHUB」として、企業の支援や講演などで活躍中。https://design-meme.jp/

 

小島健嗣さんと写真の関係

>>小島さんは、SNSでの発信も積極的で、普段からよく写真を撮影されていますね。どんな風に日々撮影されているんですか?

小島健嗣さん(以下、小島_敬称略): 基本的にデジカメで撮影します。ファインダーを覗きながら撮影したいんです。枚数としては、年間8000枚くらい。カメラは毎日持ち歩いているのですが、打ち合わせなどが多くて忙しい日や、カメラを取り出すのが面倒くさくて写真を撮らない日もありますし、逆に100枚、200枚と撮影する日もあります。

小島さん私物。Instagramに投稿した写真を印刷したもの。

 

今回、写真心理学診断書をいただいて気づいたんですけど、僕は日常を「定点観測」するように生きていて、いつもと様子が違うことを発見したときに、シャッターを押しているようです。
さらに、「伝えること」も動機になっているようです。写真心理学診断書に「水平垂直に正確な構図」の記述がありましたが、誰かに見せることを前提とした撮り方になっているのだと思います。

※小島さんの写真心理学診断書は、ナラティブ・デザインの項目が非常に高い診断結果でした。

 

>>小島さんのお写真は、「いつもと違う!」という驚きをキャッチすることと「誰かに伝えるプレゼンテーション」までがセットになっているんですね。

小島: 僕は、富士フイルムにプロダクトデザイナーとして入社して以来、分野や対象を変えてずっとデザインを手掛けてきました。

講演会などで話をする機会も多いのですが、「デザインとアートの違い」を聞かれることがあります。
デザインとは、ビジネスの中で大切なことを気づかせてくれるもの。ビジネスとして社会に着地するには、投資家に理解してもらったり、マスのコミュニケーションが必要になってきます。
対してアートとは、自分の大切なことに気づかせてくれるもの。よりパーソナルな領域で、自身の内側でコミュニケーションが起こるようなものですね。

僕は、長年「デザイン」を手掛けているので、写真の撮り方も、よりデザイン性が高くなっているんだと思います。

 

富士フイルムでやってきた「デザイン」

>>小島さんは、富士フイルムのイノベーションの象徴でもある「Open Innovation Hub」の立ち上げ及び館長としての活躍で有名ですが、富士フイルム内ではどんなキャリアをたどってきたんですか?

小島: プロダクトデザイナーとして1986年に入社しました。25歳から50歳の25年間デザインセンターに所属していましたね。ここでは、お客様と自社製品の「コミュニケーション」を行っていました。

これは、僕がデザインを担当したプロダクトの一つです。

>>水中で使えるカメラですね。旅先で使っていました!

小島: そうです。水中で使えるレンズ付きフィルムカメラです。ダイバーなどが、グローブを付けていてもフィルムを巻けるレバーの形状をしています。防水性はもちろん、現像屋さんが容易にフィルムを取り出せる仕組みや、最終的に機械がパッケージを解体してリサイクル・リユースしますので、機械が取り扱える形状というのも重要です。

>>量販に載せるためのプロダクトデザインの工夫が詰まっているんですね!

小島: この時は、インターフェースやプロダクトを通して「市場やユーザーとコミュニケーション」をしていました

次の異動先は、技術戦略部。富士フイルムでは、写真業界の低迷をいち早く予見して、2004年頃より事業改革と構造改革に着手していました。同時に将来へ向けた投資も並行して行っていました。富士フイルムは、世界で初めてデジタルカメラを製造した企業です。精密機器の製造技術やフィルムとその現像液といった化学技術など、専門性の高い技術をたくさん保有していたのです。

新規事業とは、専門性の高い技術と技術の掛け合わせで起こる。だけど、専門性の高い技術者は、普段、他分野の技術者とコミュニケーションを取る機会がありません。それを繋ぐのが僕の役目です。この時にデザインしていたのは、「社内コミュニケーション」だと言えます。

それまでの研究開発の現場は、4名くらいが出入りする研究室に出社し、実験に明け暮れ、他の誰にも会わずに帰宅するような専門性や守秘、効率を重視する状況でした。そんな研究者を一箇所に集め、ワンフロアに総勢600名が集まる研究施設が立ち上げられたんです。

これがきっかけとなって写真で培った技術を生かした化粧品ビジネスへ参入するなど、社内でチャレンジが立ち上がっていきました。そうこうしているうちに、技術戦略部が経営企画室の下に紐づくことになり、名前もイノベーション戦略部、ビジネス開発・創出部へと変わっていきます。

そんな中、2014年に立ち上げたのが「Open Innovation Hub」です。この時に担当していたのは、「異分野コミュニケーション」だと言えます。社外からも多くの人に足を運んでもらい、富士フィルムが保有している技術を見てもらうことで、新しいアイデアや着想がFind out(発見)されて、会社を超えたコラボレーションが起こっていきました。

大企業のイノベーションの鍵となるもの

>>デジタルカメラが誕生したのが1988年。2000年代に入ってすぐ構造改革に着手されたのは、かなり早かったと感じます。大企業では、これまでの事業の衰退が予測されているのに、なかなか新規事業が立ち上がらないケースは珍しくありません。そんな中で富士フイルムがイノベーションに成功したのはなぜですか?

小島: まず、当時の社長の古森重隆さんが、自ら改革の先頭に立っていたこと。身を切るようなリストラや人員整理も行われていたし、それと同時に未来に対する投資を並行して行っていたことが挙げられます。

これまで自分の研究に専念していた研究者や中間管理職たちからは、「とてもじゃないけど、仕事にならない!」という悲鳴が上がりましたが、役員たちも「改革には時間がかかるものだ。絶対に芽が出るから、みんな頑張れ!」って応援してくれていましたね。

僕もその現場にいたわけですが、「自分たちにとっての当たり前」をまずは認識し直して、その事柄に他者との共感が生まれると、共創につながっていくんですよ。

design MeME ではどんな役割を担っていくのか

>>壮大なストーリーをお聞かせいただきありがとうございます。富士フイルムを退職して、2022年1月にはdesign MeMEを立ち上げられましたが、小島さんは今後どんな活動をしていくのですか?

小島: まだ生まれて間もない会社ですが、役割としては「共創によるイノベーションをデザインの力で支援する」をうたっています。「meme(ミーム)」には、文化を伝える遺伝子という意味があるんですよ。

新規事業立ち上げや構造改革の際には、大きなコンサル会社に丸ごと依頼するようなケースも多いと思うのですが、例えば、コンサル会社と経営層と現場が共感できるようにつないだり、現場に寄り添うような役割だったり、でしょうか。

社員が言語化できていなことを言語化したり、戦略を社員に浸透させる手伝いや、企業が新たな市場へ価値訴求したい時の、次世代の「コミュニケーションの場」のあり方をブランディングするなど。

企業内部、あるいは企業と企業が「共創」に至るまでのコミュニケーションをサポートします。

ミッションとしては「人と地球の未来をつくる。」を掲げています。ヒューマンセンタードな考え方はあまり好きではなくて、人と環境の両方を大事にするようなデザインがしたいですね。

>>お写真からも、雄大な自然に対する愛情を感じました。ここら辺で、今回ご提出いただいた写真をご紹介いただいてもよろしいでしょうか?

 

小島さんの写真と、写真心理学診断の特徴

一枚目

小島: 学生時代からの仲間との室内楽の練習の帰りです。コロナ禍で、都内の公共施設を借りられなくて、気分転換にドライブして房総にある道の駅まで。廃校になった小学校をリノベした施設でカルテットを楽しみました。朝から行って、夕方早々に帰路についたけど、事故渋滞に巻き込まれてしまって。海ほたるに休憩に立ち寄ったら、たまたま日没後のマジックタイムに遭遇しました。デッキはものすごく寒かったけど、しばし言葉を失いながらも夢中でシャッターを切りました。

 

二枚目

小島: これも、もう、本当に偶然です。朝起きてカーテンを開けたら、ばーーーーーん!とダブルレインボーが目に飛び込んできて。枕元のスマホで広角にして撮影しました。虹は突然現れて、数分でスーッと消えていく。あ!と見つけた時の嬉しさ、と瞬く間に消えゆく儚さです。

 

三枚目

小島: ひ孫1号、2号と、zoomで画面越しに初対面する私の両親(93歳と87歳)です。
姉の娘が2020年5月に出産(ひ孫1号)、私の娘が2021年9月に出産(ひ孫2号)。コロナ禍での出産は、それぞれエピソードが盛り沢山だったのですが、お互いに会えていませんでした。私自身も帰省を控えていたのですが、コロナ禍が落ち着いた2021年11月にほぼ2年ぶりに両親の元へ帰省し、この機会にオンライン対面を提案しました。iPhoneをテレビに繋いで川崎市、横浜市、名古屋を結んでの対面が実現。多幸感に包まれた優しい温かな気持ち。親孝行ができた実感に溢れるひと時でした。

 

>>小島さんのお写真は、アナリティクス(能動的な知性)とスピリチュアル(思わず撮らされたような強い感動)が同居していること、視野がとても広く、全体を俯瞰的にとらえること、画角に対するデザイン的な意識が高いことがとても特徴的ですね。

小島: やっぱり、日々ネタ探しをして、それを仕事や社会に還元したいと思って写真を撮っているんでしょうね。

 

共感から共創へ。共感を呼び起こす「写真心理学」体験

>>今回、写真心理学診断を体験されてみて、いかがでしたか?

小島: 最初「写真心理学」について聞いたときに、正直「大丈夫かな?」と思いました。僕は写真業界に長くいたこともあり、写真はサイエンスの領域だと思っていたので「心理学」だなんて謳っちゃって、大丈夫かな?と。一方で、日頃から「サイエンスと社会学は融合するべきだ」と言っているのですが、心理学は社会学の一種ですよね。まさにそれが起こっていると思います。

撮影されたパーソナルな気づきを、写真心理学診断という形でメタファー化して、人と人が共感できる形にする。僕がこれまで仕事でやってきたことと同じなんですよね。今回体験してみて、初めて気づきました(笑)

偉大なイノベーションや共創も、最初は「ローコンテクストで語ること」から始まると思っているんです。個人の気づきやパーソナルな体験じゃないと、人って共感できないんです。写真心理学を使うと、それが容易にできますね。

 

>>写真心理学は、デザインというよりかは、アートの領域に貢献できるツールと捉えて問題ないでしょうか?

小島: そうですね!まさに、そのとおりだと思います。

 

>>写真心理学サービス「miit」へのアドバイスもお願いします。

小島: 写真心理学の診断用語については、アップデートができそうですね。デザインやアートに馴染みのない人にも、容易に理解できる文章になるといいと思います。あとは、もっと気づきを深めるための仕組みがあるといいです。

 

>>今回は小島さんおひとりで体験してもらいましたが、本来は写真と写真心理学診断の結果を持ち寄って、対話していただきながら「お互いの認識の違い」「日常で注目しているものの違い」などを交換したり、シェアしてもらうワークなんですよ。さらに、1日1枚写真を投稿してもらいながら、毎日の気づきを習慣化するようなプログラムも用意しています。

小島: なるほど。その辺の価値も、もっと分かりやすく説明できるといいですね。

>>写真心理学診断やトライアルセッションなどを体験をしていただくと、皆さん一気に腹落ちしていただけるんですよ。これ、なぜなのでしょう?

小島: 「写真」が人々の生活の中で「当たり前になり過ぎている」ってことでしょうね。いやはや、もっと写真心理学を普及させるために「ちゃんと手伝わないとだめだ!」って感じましたよ。

>>なんと!それでは、よろしくお願いします(笑)

 

 

 

インタビュアー プロフィール

楢侑子  Nara Yuko

株式会社ナムフォト 代表取締役/ miit代表 / 写真心理学士

多摩美術大学で写真を始めて以来、写真家として活動を続けながら、mixi、TOKYO FM avexなどでメディアの企画・編集に従事。ライター時代はヒット記事を連発。さらにコミュニティデザインの仕事を経て2016年ナムフォト設立。ポートレート撮影を「究極のコミュニケーション」と位置づけ、撮影やワークショップを行う他、写真を使ったコーチングセッションを提供。BtoB向けのワークショップ運営やチーム立ち上げ、研修事業に関わっている。2020年、写真心理学という独自メソッドを用いた研修サービス「miit」をリリース。